
滋賀県立瀬田工業高等学校 山田哲也
教材用受動歩行模型を用いた設計学習の教育方法
Learning Engineering Design with Passive Walking Model
第53回下中科学研究助成金取得者研究発表より

構想し、設計するというデザイン・プロセスこそ創造的なものづくりの基本です。これは、工業高校で知識・技術の伝達にとどまらない新時代のエンジニアリング教育を模索する高校教師による、問題解決や思考力を重視した授業の記録。シンプルな歩行模型の製作を通し、学生たちが模型の仕組みを分析し、やがて求められる設計を能動的につくりあげていきます。
1.はじめに
技術・工業教育は、技術立国である我が国の基盤を支えることにつながり、それは将来の国力にも影響を及ぼすことであるとも言える。現在この技術教育を普通教育の1教科として扱っているのは、中学校の技術・家庭科の中の技術分野のみであるが、子どもの健全な発達や、生活に必要最低限な技術的素養を身につけるという視点、そして将来の国力という視点から、新しいものづくり教育を初等教育の中から探り、初等・中等教育へと一貫した流れの中に位置づけることは、重要であると考えられる。
工業教育は、中学校技術教育と全く異なる教育内容・教育方法を採るといっても過言ではない。中等教育後期における工業教育は高度経済成長期には、その社会を支える大量の中堅技術者・技能者を養成するという大きな社会的役割を担った。大量の中堅技術者・技能者を養成するには、このうち要素作業を実験・学習の基本的位置付けとした。こうして高等学校3年間という短期間の間に多くの技能や知識を習得させた。その教授法は要素作業に特化した知識・技術伝達的方法が効率的であった。現在も基本的にはそれを踏襲しているが、産業構造の変革に追いついていない危惧もある。産業社会からは創造力などの不足が指摘されるようになり、工業教育の課題は山積している。
2.研究の目的
ものづくりを学ぶには、構想、設計、製作、評価、発表といったデザイン・プロセスが大切である。現在のものづくりに関する教育は、自然科学の理論を学ぶことを目的としたり、ものづくりの楽しさや達成感を持たせるものが多いが、デザイン・プロセスそのものを学ばせようとする教材は少ない。特に構想から設計にいたる過程はものづくりの基本であり、初等教育から中等教育にわたり身につけるべき技術リテラシーであると考えられる。
現状の工業科では、高度経済成長期に多くの中堅技術者・技能者を養成する必要から、要素作業を中心とする教育プログラム、すなわち技能に関する訓練的教育が中心となってきた。
しかしながら、今日の産業社会が求めるニーズは多様化し、要素作業による知識や技能だけではなく、問題解決的な能力や創造力、あるいは思考力、判断力が求められるようになった。そうした中で、設計1)教育をものをつくる中で行い、構想から設計の能力を高める教材の必要性が技術教育・工業教育分野では求められている。デザイン(構想・設計)する能力をつける教材を用い、実際に教育実践した中で、その教育効果を示すことが本研究の目的である。