ショウジョウバエの生殖休眠(卵巣休眠)に関する機能解析 | 下中記念財団

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東北学院中学校・高等学校 小島紀幸

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ショウジョウバエの生殖休眠(卵巣休眠)に関する機能解析

DROSOPHILA MELANOGASTER

第56回下中科学研究助成金取得者研究発表より

<h1>ショウジョウバエの生殖休眠(卵巣休眠)に関する機能解析</h1>

環境の変化を受けて生殖器官の活動を停止させる「生殖休眠」をする昆虫がいます。ここで取り上げるショウジョウバエも、その一種です。東北学院中学校・高等学校の小島先生は、このショウジョウバエの雌が生殖休眠を引き起こすメカニズムを分子レベルで研究し、インスリン産生細胞(IPCs)とアラタ体(CA)が大きく関わっていることを解明しました。


1.はじめに

私は遺伝研究のモデル生物であるショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の生殖休眠機構についてこれまで研究してきた。休眠とは生物が一定期間活動を停止させることであり、昆虫では特に環境の変化を受けて生殖器官の活動を停止させる場合がある。

ショウジョウバエの場合、温度と光周期によって、卵巣が活動を停止させる生殖休眠(卵巣休眠)をもつことがすでに知られている[1-6]。私はその生殖休眠(卵巣休眠)の分子ならびに細胞レベルでの基盤を確立するため、過去の知見に基づいて、温度条件ならびに日長条件を整備し、ショウジョウバエの新成虫を羽化後から飢餓状態に置くことで、卵巣休眠ならびに非休眠を一定の割合で生じさせることに成功した。具体的には、羽化後の雌を低温短日条件にさらした場合、卵巣内に卵黄蓄積のない状態が維持される個体が多くなり,逆に低温長日条件にさらした場合、卵巣内に卵黄を蓄積させる個体が多くなる休眠差異を明らかにできたのである。しかも、両環境条件における顕著な休眠差異は、飢餓条件下に置くことによって顕著に認められたことから、本種の雌が羽化後に暴露された厳しい環境条件を事前に察知し、生殖器官の発育を制御することで延命につなげるためのメカニズムをもっていると判断した。さらにその後のGAL4-UASシステムを利用した研究から、卵巣休眠機構には脳内のインスリン産生ニューロンが関わっており、温度ならびに栄養状態、さらには光周期の情報を統合して休眠を調節している可能性を指摘できた。加えて、内分泌器官の一つであるアラタ体が、その情報に基づき、幼若ホルモン(JH)の産生と分泌を介して卵巣発育を調節しているものと考えられる。つまり、過去の知見と同様、卵巣を発育させる場合には幼若ホルモン分泌量を増加させ、逆に卵巣休眠を誘導する場合には分泌量を減少させることで卵巣発育を調節しているものと考えられる。これらのことは、インスリンシグナル伝達系ならびにJH合成系に関わる酵素遺伝子等の過剰発現あるいはRNAi法やドミナントネガティブ法による阻害実験から明らかにできた。これまでの研究成果から、生物が生殖休眠をもつことは、厳しい環境条件に置かれた場合でもできる限り延命できるようにするための適応手段の一つであり、本研究はそのメカニズム解明に向けた分子レベルでの新しい知見を提供するものである。


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