「平和」という木に 「教育」という水を

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神戸大学大学院人間発達環境学研究科 佐賀達矢

神戸大学大学院人間発達環境学研究科 佐賀達矢

第3回「表彰事業」優秀賞『食性解析によるスズメバチ類の生態解明』

Elucidation of wasp ecology

第3回「表彰事業」受賞者研究論文より

<h1>第3回「表彰事業」優秀賞『食性解析によるスズメバチ類の生態解明』</h1>

近年では公園や公共施設では巣作りを始める前の女王蜂を大量に捕殺する駆除が積極的に行われている。スズメバチ亜科の蜂は刺傷に伴ってアナフィラキシーショックを引き起こす可能性がある危険な昆虫という一面もあるが、彼らと共生して資源利用してきた文化が日本やアジアにはあり、そのような生物の基礎的な生態を理解することは自然共生社会の第一歩になると考えられる。


要旨

北海道及び本州にはスズメバチ属の蜂6種が同所的に生息している。これは種間で餌資源を食い分けることで同所的に生息できているとする仮説が40年以上前から提唱されてきたが、いまだに実証されていない。また、中部日本で蜂愛好家に採集、飼育され、蜂の子として食べられているシダクロスズメバチ(クロスズメバチ属)は人が与えた餌を捕食しているのか、与えた餌以外にも野外の餌生物を捕食しているのかは、わかっていない。本研究ではハイスループットシーケンサーを用いて、スズメバチ属の蜂(6種)およびシダクロスズメバチの、いずれも幼虫の消化管内の餌生物断片からDNAバーコーディング法によって種の特定を行い、上記の課題を検証した。その結果、在来のスズメバチ属の蜂及びシダクロスズメバチは、過去の目視観察による報告や、ハワイ島、ニュージーランドのスズメバチ科の蜂と比較して格段に多様な餌を利用していることが明らかになった。また、オオスズメバチとコガタスズメバチ、キイロスズメバチは互いに一部の共通の餌生物を利用しながらも、異なる餌生物を利用していることが明らかとなり、餌資源の食い分け仮説を実証できた。シダクロスズメバチは、人間が与えたニワトリやニホンジカの肉だけでなく、環境中の鳥類や哺乳類の肉も捕食していることが明らかになった。

研究の背景

日本の里山は生物多様性の宝庫であり、それが持続可能な形で維持され、昆虫食を含む独自の食文化を形成してきた。中部地方を中心とする日本の山間部では、クロスズメバチやオオスズメバチの幼虫や蛹を蜂の子と呼び、秋の味覚として食べられている。現在も、蜂の採集から飼育、調理方法が改良され、発展が続いている(Van Itterbeeck et al. 2021)。蜂愛好家はクロスズメバチ属の蜂の巣を大きく育てて食用とするだけでなく、次世代の女王蜂を交尾、越冬させ、翌年春に自然に放す活動も行っている(野中 2005)。また、宮崎県の高千穂地方ではオオスズメバチの幼虫や蛹が現在も食べられている(野中 2005)。蜂の子食は、まさに里山の生活とその自然環境に根ざした食文化といえる。また、それらスズメバチは貴重な食材なだけでなく、農業害虫や衛生害虫を捕食し、発生を抑える働きがあると推察されている(小野 1997; Brock et al. 2021)。他方で、丘陵地の宅地化によってスズメバチの生息域と人間の生活圏が重なり、都市周辺でスズメバチによる殺傷被害が多発している(山内 2009)。近年では公園や公共施設では巣作りを始める前の女王蜂を大量に捕殺する駆除が積極的に行われている。スズメバチ亜科の蜂は刺傷に伴ってアナフィラキシーショックを引き起こす可能性がある危険な昆虫という一面もあるが、彼らと共生して資源利用してきた文化が日本やアジアにはあり、そのような生物の基礎的な生態を理解することは自然共生社会の第一歩になると考えられる。

北海道及び本州にはスズメバチ属の蜂6種(オオスズメバチ、コガタスズメバチ、キイロスズメバチ、モンスズメバチ、ヒメスズメバチ、チャイロスズメバチ)が同所的に生息している(松浦 1995)。スズメバチ属の蜂は昆虫の中で最上位捕食者であり、また、巣の最盛期には数百個体の群れで生活するため、生態系内での捕食圧は大きい(小野 1997)。そのため、餌や営巣場所を巡る競争が起き、競争力の低い種が上位の競争者と異なる餌種や営巣場所(生態的ニッチ)を利用する、ニッチ分化が生じている可能性がある(Matsuura and Yamane 1990; ニッチ分化については Ronconi and Burger 2011 を参照)。例えば、フランスのモンスズメバチ(Vespa crabro)とツマアカスズメバチ(Vespa velutina)は、炭水化物源である樹液を巡る種間競争を最小化するために異なる時間に活動する(Monceau et al. 2015)。松浦がチャイロスズメバチを除くスズメバチ属5種の捕食場面と巣に持ち帰った肉片の目視観察5,274例から餌生物種を特定したが、手法の限界から知見が十分でないことも記述しており(松浦・山根 1984)、40年前からスズメバチの資源分化仮説は提唱されてきたがこれまで実証されてこなかった。本研究では近年利用可能になった遺伝学的な手法によってこれを検証する。

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