
奈良県立西和清陵高等学校 早川純平
“奈良墨”を活用した教材開発および科学研究実践課外活動
Nara ink
第58回下中科学研究助成金取得者研究発表より

一般に、墨は炭素の微粒子である煤(すす)と動物の腱などから作られる膠(にかわ)から調製される保護コロイドであることが知られている。高校化学の教材の中で、保護コロイドの適切な教材はこれまで開発されておらず、保護コロイドの判りやすい教材を提示できれば極めて高い教育効果が見込める。
1.はじめに
近年、生徒の理科離れが顕著な問題となっている。国際教育到達度評価学会(IEA)が実施した「国際数学・理科教育調査」では、日本の生徒は成績が良いにもかかわらず、理科が楽しいと思う生徒が極めて少ないことが指摘されている。その原因のひとつとして、授業における実験数の減少が挙げられる。特に、知的好奇心を刺激する実生活に根ざした化学実験は少なく、生徒の理科離れが加速している。生徒の理科離れは本質的に理系離れを招き、技術立国日本としての国力を落とすことにつながる可能性もあるため、その対策は急務である。
現在、奈良県の高等学校では、総合的な学習の時間等で、奈良TIMEの学習を実施し、奈良県の伝統や文化の学習に取り組んでいる。そのため、地域の特産品を活用した教育活動は、総合的な学習の時間との相乗効果が期待でき、生徒の知的好奇心を刺激する教科横断型教材としての期待が高い。そのような背景の中、奈良県の特産品である奈良墨、ヒノヒカリ、大和マナ、大和丸ナスに注目し、新規教材開発を行った。本論文の前半では、墨教材に焦点を当て報告する。
2.墨教材の開発
2-1 墨教材の背景
“奈良墨”の歴史は極めて古く、唐の時代に朝鮮から、当時の墨が奈良に伝来したと言われている。二千年を超えた今も、“奈良墨”は、奈良県の重要な伝統産業として位置づけられている。
一般に、墨は炭素の微粒子である煤(すす)と動物の腱などから作られる膠(にかわ)から調製される保護コロイドであることが知られている。
高校化学の教材の中で、保護コロイドの適切な教材はこれまで開発されておらず、保護コロイドの判りやすい教材を提示できれば極めて高い教育効果が見込める。
このような状況の中、地域の特産品である“奈良墨”を活用すれば、保護コロイドの知識を効率的に進められることと、膠を活用した墨作りが行われてきた地理的・歴史的背景を学習して郷土への関心を高めることができると予想した。そして、何よりも生きた知識を学ぶことによって化学への興味関心を高め、学習の意欲向上にも大きく貢献できると予想できる。